2016年に公開されたアニメーション映画『この世界の片隅に』は、公開前から大きな注目を集め、クラウドファンディングではわずか8日間で約2,000万円を集めたことでも話題になりました。 その土台となっているのが、こうの史代さんによる原作漫画です。 本作は、綿密な調査に4年以上の年月をかけて制作された映画版とともに、多くの読者・観客に深い感動を残しています。
この記事では、原作漫画の基本情報、物語のあらすじ、主要なあらすじ、そしてラストがどのように描かれているのかを詳しく紹介します。
『この世界の片隅に』原作漫画の基本情報
『この世界の片隅に』は、こうの史代さんが2007年から約2年間にわたり執筆した漫画作品です。 単行本は双葉社より「上・中・下巻」の3巻構成で刊行されています。
原作者のこうの史代さん自身の祖母が広島県呉市の出身であり、当時の暮らしや記憶が作品づくりの原点になったと言われています。
戦時下の暮らしを「特別な視点から描く」のではなく、「当時の庶民の日常をそのまま写し取る」という姿勢が本作の特徴です。 戦争を直接糾弾するわけではなく、過酷な情勢の中でも懸命に日々を営む人々の姿が丁寧に描かれています。
『この世界の片隅に』あらすじ
主人公・すずは広島市江波で生まれた、絵を描くことが好きな少女です。
18歳のとき、見ず知らずの青年・北條周作のもとへ嫁ぐことが決まり、20km離れた呉の北條家で新たな生活を始めます。
時代は昭和19年(1944年)。戦況は悪化していき、生活物資はどんどん不足していきます。
すずは限られた食材で食事を工夫したり、家族を支えたりと、前向きに日々を過ごしていきますが、海軍の町・呉は次第に激しい空襲にさらされていきます。 家のすぐ近くで見ていた軍艦が炎に包まれ、市街地が焼け落ちていく様子は、彼女の心を深く揺さぶります。
前半はすずの幼少期から北條家での温かい日常が描かれ、後半になると戦争の影が濃くなり、彼女の生活が徐々に変わっていく様子が淡々と、そして静かに綴られていきます。
原作漫画の主要なあらすじをわかりやすく解説
すずが呉へ嫁いでからしばらくは、穏やかで笑顔の絶えない日々が続きます。 しかし戦争の影は確実に迫り、身近な出来事として彼女たちの生活を脅かしていきます。
幼馴染・哲との再会
物語の中でも印象的なのが、海軍の水兵となった幼馴染・哲との再会です。
すずと哲の間には淡い感情があり、その空気を夫の周作も感じ取っています。
周作は複雑な思いを抱えつつも、哲に納屋で休むよう勧め、すずに「会って話してきていい」と背中を押します。
戦地に戻る哲は、死を覚悟して最後にすずへ会いに来ており、読者の胸に強い余韻を残す場面です。
北條家を襲う悲劇
戦争が激化する中、すずの兄・要一の戦死の知らせが届きます。
そして物語最大の転機となる出来事が、義姉・径子の娘である晴美の死です。
空襲で爆弾が炸裂し、すずは晴美の手を引いて逃げていましたが、爆風によって晴美は命を落とし、すず自身も右手を失ってしまいます。
晴美を守れなかった自責の念に苦しむすず。
径子の悲しみと怒りも重なり、すずは自分の居場所を見失いそうになります。
しかし、その手をそっと握りしめるように、周作が寄り添い続け、すずは「呉に残る」決意を取り戻します。
終戦と、すずの涙
やがて終戦の日が訪れます。 ラジオから流れる詔勅を聞いたすずは、膝から崩れ落ち、嗚咽します。
「晴美は何のために死んだのか」「自分たちが信じていたものは何だったのか」 残された者にのしかかる問いに、すずは深く揺さぶられます。
『この世界の片隅に』原作の結末
悲しみの連続で終わるのではなく、本作は“日常へ戻る力”を描いて締めくくられます。 すずの家族は大切な人を次々と失い、妹・すみも原爆症を患うなど、状況は決して明るくありません。
そんな中、周作とすずは焼け跡の市街で戦災孤児の少女と出会います。 晴美とどこか重なるその子を「家族として迎え入れる」ことを選び、北條家は再び小さな日常を取り戻していきます。
戦争で多くを奪われても、それでも人は生活を続けていく。 涙と希望が混ざり合う、静かで力強いラストとなっています。
まとめ
『この世界の片隅に』は、戦争を背景にしながらも、特別な英雄ではなく“当時の普通の人々”の日常を丁寧に描いた作品です。 悲しみや喪失が連続する中でも、すずたちは小さな幸せを大切にしながら前を向き続けます。
映画版を観た人にも、まだ原作に触れていない人にも、漫画ならではの静かで深い表現が心に響くでしょう。