『機動戦士ガンダム』に登場する主人公アムロ・レイの父親、テム・レイ。
彼は優秀なMS技術者でありながらも、家庭を顧みることは少なく、理想的な父親とは言い難い人物でした。
とはいえ、アムロが「親父にも殴られたことがない」と語るように、息子に対する情は持っていたことがうかがえます。
テム・レイは物語中に何度か登場しますが、その後の運命や生死は作品によって異なります。
また、彼が患ったとされる「酸素欠乏症」についても、本記事で詳しくご紹介いたします。
アムロの父親テム・レイは死亡した?
テム・レイの生死については、メディアごとに描写が異なっています。
TVシリーズが本来の話数で完結していれば、彼はMS強化技術を漏洩した容疑で、ジオンの研究機関フラナガン機関により暗殺される予定だったとされています。
ただし、アニメや小説など複数の媒体で彼の末路は異なっており、それぞれの描かれ方を以下に整理します。
アニメや劇場版では死亡の明確な描写はない
TV版の『機動戦士ガンダム』では、テム・レイが明確に死亡する描写は登場しません。
彼は酸素欠乏症の影響が残る状態でアムロと再会し、ガンダムに使用するよう勧めた古い回路を手渡します。
アムロはそれが明らかに旧式の部品であることに困惑しつつも、父と別れ、回路を捨ててその場を去りました。
その後、テムはテレビに映るガンダムの活躍を見て興奮する様子を見せます。
このような描写から、TVシリーズでは彼は生存していると解釈するのが自然です。
一方、劇場版『機動戦士ガンダムIII めぐりあい宇宙編』では、再編集によってテムのその後の描写が追加されています。
テムは建物の外に出た後、階段から転落し動かなくなる様子が描かれており、死亡したか否かは視聴者の判断に委ねられています。
小説版では階段から転落して死亡と記されている
富野由悠季氏による小説『密会~アムロとララァ』では、劇場版と同様にテム・レイは転落事故に遭いますが、こちらでは明確に死亡したと記載されています。
劇場版では曖昧だったテムの結末に対し、作者自身が小説の中で明確な終焉を描いた形と捉えられるでしょう。
酸素欠乏症の後遺症とは?
酸素欠乏症とは
酸素欠乏症とは、酸素濃度が通常より低い環境下で発生する症状であり、特に脳へのダメージが深刻です。
空気中の通常の酸素濃度は20.9%とされていますが、18%を下回ると酸素欠乏のリスクが生じます。
死亡に至る危険性も高く、仮に命を取り留めた場合でも、何らかの後遺症が残る可能性があります。
その主な症状には、言語障害・運動障害・記憶障害などがあり、日常生活に大きな支障をきたすことも少なくありません。
劇中でのテム・レイの様子からは、初期とはまったく異なる人物像がうかがえ、明らかに酸素欠乏症による影響を受けていると推察されます。
テム・レイはサイド7での戦闘により宇宙空間に放り出された
物語の冒頭、ジオンのモビルスーツ・ザクがサイド7に侵入し、それを迎え撃ったアムロによってザクが撃破されます。
この戦闘の影響でコロニー外壁に破損が生じ、その穴からテム・レイは宇宙空間へと飛ばされてしまいました。
アムロはザクを撃墜した影響には気づいていたものの、父親が宇宙へ放り出されたことまでは認識していなかったようです。
また、その後のアムロの描写を見る限り、父の安否について深く思い悩む様子はなく、親子の間には距離があったことがうかがえます。
むしろ、テム自身がアムロや住民よりもMSの開発状況を優先していたことから、親子間に温度差があったと考えられます。
結果として、アムロはテムを既に死亡したものと認識していた節があり、サイド6で再会した際には驚きを隠せない表情を見せていました。
長時間の漂流によって酸素欠乏症を発症した
宇宙空間に投げ出されたテム・レイは、幸いにもノーマルスーツを着用していたため即死は免れました。
しかし、そのまま宇宙を漂流し続けたことで酸素の供給が制限され、酸素欠乏症を引き起こす結果となりました。
その後、どのようにしてサイド6へ辿り着いたのか、あるいはどこかで救助されたのかは不明です。
ただし、アムロと再会した際には、明らかに以前の理知的な人物とは異なり、酸素欠乏症による影響が見られる状態でした。
知的障害に近い後遺症が見られた
再会時、テム・レイはアムロに対しまずガンダムの戦果を尋ねました。
父親としての再会の喜びや安否を気遣う言葉はなく、アムロを息子というよりもガンダムの操縦者としてしか見ていない様子でした。
これにより、テムの精神状態は正常とは言い難く、彼がかつての技術者としての誇りを失っていたことが明確に表現されていました。
言動の端々には情緒の不安定さが現れており、明らかに記憶や認知能力に障害が残っていたと考えられます。
この異変に、アムロは大きな衝撃を受けていました。
旧式の回路を渡して喜ぶ姿に精神異常が表れていた
サイド6での再会時、テム・レイはアムロに古い回路を手渡します。
彼はそれを「ガンダムを強化する装置」だと主張しますが、実際には時代遅れの旧式部品でした。
アムロはその現実に失望し、父親の変わり果てた姿に言葉を失います。
後に、アムロは再び父のもとを訪れ「渡された回路が非常に有効だった」と嘘を伝えます。
テムはその言葉を鵜呑みにし、満面の笑みで喜ぶ様子を見せました。
彼の反応は常軌を逸しており、明らかに精神の均衡を失っていたことがわかります。
その姿を見届けたアムロは、静かに「さようなら、父さん」と別れを告げました。
この言葉には、父親との最終的な決別の意思が込められていたと考えられます。
テム・レイの最期についてのまとめ
テム・レイの死に関しては、作品によって描かれ方が異なります。
TV版では明確な死亡シーンは描かれず、生存している可能性が示唆されています。
一方、劇場版では階段からの転落シーンが追加され、生死の判断は視聴者に委ねられました。
さらに、小説版でははっきりと死亡したと記されており、作品ごとに結末が分かれている点が特徴的です。
また、彼が患った酸素欠乏症は、人間としての機能や思考能力を大きく損なうものであり、テム・レイの人格変化もその影響によるものだと考えられます。
息子アムロとの再会は、感動的な場面というよりも、むしろ切なく哀しい印象を与えるものでした。
テム・レイという人物の最期は、戦争がもたらす過酷な現実と、家族の断絶というテーマを象徴するエピソードのひとつといえるでしょう。